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名古屋地方裁判所 昭和59年(ヨ)1473号 決定

債権者

宮原芳三

債務者

トヨタ自動車株式会社

右代表者

豊田章一郎

右訴訟代理人

鎌田隆

主文

一  債権者の本件申請を却下する。

二  申請費用は債権者の負担とする。

理由

第一当事者の求める裁判及び当事者の主張

一  債権者の申請の趣旨及び申請の理由

債権者の申請の趣旨及び申請の理由は別紙一(仮処分申請書)、二(準備書面)のとおりである。

二  申請の趣旨に対する債務者の答弁及び申請の理由に対する債務者の認否及び主張は別紙三(答弁書)のとおりである。

第二当裁判所の判断

一まず、本件申請について保全の必要の有無を判断するに、本件申請は債務者に対し別紙一(仮処分申請書)添付図面表示の排気ガス清浄装置の使用、譲渡、貸渡し及び譲渡若しくは貸渡のための展示の差止めを求め、かつ、債務者の右物件に対する占有を解いて、名古屋地方裁判所執行官に保管を命ずる裁判を求めるものであるから、これは民事訴訟法七六〇条の規定する仮の地位を定める仮処分、いわゆる満足的仮処分を求めるものと解される。このような差止め等を求める満足的仮処分申請について、その保全の必要性の有無を判断する場合においては、当該仮処分命令が発令されないことによつて仮処分債権者の被るべき不利益と当該仮処分命令が発令されることによつて仮処分債務者の被るべき不利益とを考慮し、両者の比較考量の上に立つて判断されるべきところ、債権者が、現時点において、債権者主張に係る本件特許発明を実施して排気ガス清浄装置を製造、販売していないことは同人の自認するところであり、本件記録上も、債権者が現在右物件を製造、販売している事実ないしはそのための準備を現実に行つていたとの事実を何ら窺うことはできないから、債務者が前記排気ガス清浄装置を製造、販売することによつて債権者が被る損害は、本件特許権の実施料相当の金員を受けることができない損害に限られるものと一応考えられるのであり、本件記録上も債権者に右以外の損害が発生すべきことを窺うことはできない。これに対し、本件仮処分命令が発令されることによつて債務者の被る不利益をみるに、債務者は右命令により前記排気ガス清浄装置の製造、販売等が禁止されることにより、債務者の行う企業活動(車両の大量生産及び販売)に重大な支障が生ずることが予想され、回復し難い打撃を被ることが窺えること、また、債務者の損害賠償能力については、その企業規模に照らしいささかの不安もないことが窺える。

以上の両当事者間の事情を総合し、比較考量すると、本件仮処分申請は、その保全の必要性を欠くものといわざるを得ない。

二従つて、債権者の本件申請には保全の必要性が存しないから、被保全権利の存否について判断するまでもなく理由がない。

よつて債権者の本件申請を却下することとし、申請費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(加藤義則 高橋利文 綿引穣)

別紙〈省略〉

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